はじめに
今日、日本は様々な人々が共存する、国際的な国へと変化を遂げている最中です。皆さんの身の回りでも実感することがあるのではないでしょうか?パンデミックの影響はあるものの、国際化は進み続け、今後もさらに多種多様な人々との交流が増えていくことは確実でしょう。
それに伴い、すでに日本における「外国につながる子どもたち」の人数は増加傾向にあります。文部科学省の調査によると、公立学校において日本語指導が必要な児童生徒数は、約10年間の間に 1.8倍も増加しているという結果が出ています。この数字にも驚かされますが、ここで調査の対象になっている子どもたちは、学校に通えている小学生以上の年齢の子どもたちに限られます。未就学児や、義務教育が適用される年齢にもか関わらず、何らかの事情によって学校に行けていない子どもたちはこの数に含まれていないため、実際には上記の数字よりも多くの「外国につながるのある子どもたち」が日本に存在していることが想定されます。
本記事では、外国につながりのある子どもたちが直面する課題、現状、支援が必要な理由、および支援の事例について言及していきます。他人の課題ではなく、私たちの課題として理解できるよう是非、最後までご一読いただき、外国につながりのある子どもたちを取り巻く課題について一緒に学んでいきましょう。
外国につながる子どもとは
※「外国につながる子ども」とは、日本における外国籍の子どもだけではなく、文化的、言語的に多様な背景をもつ子ども全てのことを示します。
日本に住みながらも日本国外とのつながりを持っている子どもたちは数多く存在しており、外国とのつながり方は様々です。国籍は日本国籍を含み、様々な国籍の子どもたちが含まれます。外国籍であっても生まれてから一度も国籍の国を訪れたことがない子どもや、無国籍の子どもも存在しているためです。また、日本にルーツがありながら長い期間外国で暮らしていた子ども、国籍の国よりも日本での生活の方が長い子ども(日系3世、4世など)在日コリアン4世5世に該当する子ども、日本人とフィリピン人の間に生まれた子どもなど、上に紹介しただけでも様々な背景を持った子どもたちがいるため、彼らをまとめて「外国人児童生徒」と呼ぶには困難さが生じます。また、その呼び方に彼ら自身が違和感を持つことも多いのです。
そのため近年は「外国人児童生徒」や「外国籍児童生徒」という表現よりも、「外国につながる子ども(児童生徒)」もしくは「外国にルーツのある子ども(児童生徒)」と表現することが多くなってきました。下記に示す彼ら独特の課題や困り感を支援するために、学校やその他地域の団体が様々な活動を進めている中で、当事者らに配慮した表現が適切であると考えられてきたためです。
外国につながりのある子どもの現状
冒頭でも記載したとおり、日本国内において外国につながりのある子どもたちは増加しています。主な背景としては平成2年6月に「出入国管理及び難民認定法」の改正が施行されたことなどが考えられます。日本国内では労働者不足が嘆かれており、それを解決する目的で外国人人材の採用を積極的に行っています。日系人を含む外国人の滞日が増加したことで、その子どもたちも親に連れられて一緒に入国をしたり、のちに日本で生まれることによって、外国につながる子どもが増加しているのです。
日本で仕事をするために入国した家族たちは、働き口のある工業団地の付近などに集住している傾向があります。また、令和4年度に行われた厚生労働省の調査によると、 外国人を雇用する事業所は 298,790 所であり、 事業所数が多い上位3都府県 は1位が東京 76,211 所 (全体の 25.5%) 続いて愛知 23,850 所 、大阪 23,413 所 の順です。
また、対前年増加率が高い上位3県 は1位が長崎 1,609 所 (前年比 12.2%増)2位が高知 1,017 所 (同 11.4%増) 続いて大分 1,834 所 (同 10.5%増) 〔同 1,660 所〕 です。首都圏以外の県も近年増加傾向にあるため、皆さんが住んでいる地域にも外国人人材やその子どもたちが多くいるかもしれませんし、今後さらに増えていくことが考えられます。
出典:文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」
日本での就職以外のケースとしては下記のものが挙げられます。
国際結婚: 国際結婚によって、外国出身の配偶者との間に生まれた子どもたちは外国につながりを持ちます。国際結婚は、日本が国際化し、外国人との交流が増加した結果であり、治安の良さや住みやすさなどを考慮して、配偶者の国ではなく、日本を生活の拠点として住むことを決める家族も多いようです。
留学: 外国から日本に留学している学生やその家族によって、外国につながりのある子どもたちが生まれることがあります。日本の高等教育機関では外国人留学の受け入れを活発に行っているため、それが影響している可能性が考えられます。
外国につながりのある子どもに関わる課題
外国につながりのある子どもたちには、彼ら特有の課題があります。課題の多さだけではなく、それらの課題が複雑に絡み合い、根本的な課題の解決が困難な状態にあるのです。大きく3つのカテゴリ(言語と文化、教育、社会)に分けて紹介します。
言語と文化の課題
言語の壁:外国につながりのある子どもたちは、通常、複数の言語を話す家庭で育つ場合があります。たとえば、国際結婚によって生まれた子どもは、親の母国語と現地の言語を同時に使用する環境に置かれます。2つの言語を同時に同じ速度で習得することができたら理想的ではありますが、容易なことではありません。どちらかの言語が疎かになってしまったり、2つの言語を混ぜて話すようになったり、どちらの言語も未発達のままというケースもあります。これにより、言語の壁が発生し、コミュニケーションや学業に課題が生じることがあります。一方、家庭内で話す言語は1つに統一されているが、子どもが学校で学ぶ言語と異なる場合があります。家庭内では親が使い慣れている言語でコミュニケーションをとり、学校では全て日本語を使わざるを得ない環境に飛び込むことになるため、学業の適応に時間がかかり、子ども同士のコミュニケーションに難しさが生じることも容易に想像できます。
文化的適応: 異なる文化に触れることから、文化的適応に課題を抱えることもあるようです。外国につながる子どもたちが生活するのは学校だけではありません。日常生活で利用する病院やお店、市役所、公共交通機関など様々な場所で様々な人と関わり合いながら生活をする必要があります。その際にぶつかるのは、以前住んでいた国と日本の文化の違いです。電車の中では通話をしてはいけない。写真撮影をしてはいけないお店があるなど、気をつけて生活をしなければならない場面が多くあります。これらのマナーは他者への配慮のために必要であると考えられる一方で、そのような文化を持っていない国から日本にきた人たち、特に子どもたちにとっては混乱やストレスを引き起こしかねず、彼らが文化的に適応する際の妨げになっている可能性が高いのです。
教育の課題
教育システムの違い: 学校の教育システムやカリキュラムが異なる国から来た子どもたちは、新しい教育制度に慣れるまで時間がかかります。これには教科の違いや教育方法の違い、教科書内容の違いなど、彼らの母国の教育と日本の教育の間に、大きな違いがあることが起因しています。例えば、母国で学校に通っていた児童生徒が家族での日本移住に伴い、日本の学校生活をスタートさせる場合、母国の友達や教員から離れ、日本の学校の児童生徒、教員との関係構築を始めることになるでしょうまた、国によって様々な学校文化があるため、異なる文化に適応する難しさもあります。適応するのに時間がかかることだけが課題ではありません。万が一適応することができなかった場合、学習の遅れによって進学率に影響を及ぼします。さらにはいじめや不登校にまで発展する危険性があることを、私たちは知っていなければなりません。
専門的なサポートの不足: 外国につながる子どもたちが特別な学習ニーズを持つ場合、それに対応するための専門的なサポートが不足していることも課題として挙げられます。特別教育プログラムや言語サポートプログラムが充実していない場合、教育格差が広がってしまうおそれがあります。
食文化の課題: 外国につながる子どもたちの中でも宗教的な理由や、食べ慣れていない食材を使用した日本の給食を食べることが難しい子どもたちがいる。
イスラム教徒の場合、豚肉や豚肉を使用して作られた食品を口にすることができません。また、人によってはイスラム教のルールに則って流通しているハラルフード以外を食べることができない子どももいます。また、馴染みのない日本食を食べることができず給食の時間が嫌いになってしまう子どももいるようです。
社会的課題
アイデンティティ: これから社会に出ていく段階にある子どもたちは、自分自身のアイデンティティを理解、享受したり、他者との違いを受け入れたりしながら周囲の人間との関係を構築していく必要があります。「私は日本国籍を持ち、生まれてからずっと日本に住んでいて、日本語が堪能だから日本人に違いない」と考える方は多いのではないでしょうか。しかし、外国につながりのある子どもたちは、国籍、言語の多様化が進むあまり自己アイデンティティを確立する過程が複雑化することもあります。自分がどの文化や国に帰属するのか、自己認識を持つことが難しいのです。
無意識の差別:外国人の方が流暢に日本語を話した時に「日本語お上手ですね」と言ってしまったことはありませんか?その言葉に傷つく人もいるということを覚えておかなければなりません。自己のアイデンティティに悩みを感じやすい彼らにとって、それは褒め言葉ではなく、差別になりうるのです。見た目で判断をし「この人は日本語が話せないに違いない」と思い込んだり、「お箸を使えるはずがない」という固定概念を持っているからこそ、彼らが、日本語を話したり箸を使った時に不必要に褒めてしまうのだと考えられます。しかし、言われた本人たちからしたら、見た目で判断されることに違和感を持ち、「過剰に子ども扱いされているのではないか」、「嫌味を言われているのではないか」、さらに言うと「差別されているのではないか」と感じてしまうのです。このように、日本人側も悪気があってのことではないにしろ、「無意識の差別」によって、外国につながる子どもたち、大人たちをも傷つけてしまっている危険性があるのです。
家庭内の問題: 一部の子どもたちは、家庭内で親や親戚から異文化への適応に関するプレッシャーを受けることがあります。例えば、親が子どもに特定の文化や宗教の価値観を押し付けることがあり、これが家庭内の緊張やストレスを引き起こすことがあります。また、親よりも子どもの方が日本語の習得が早い場合もあることから、市役所での手続きや病院の付き添いなどを理由に学校を欠席する児童生徒もいます。日本語ができるといっても、小学生や中学生の知識ではまだまだ難しいこともあるでしょう。自分の手伝いがないと生活ができない、という親の姿をみて、自身が日本で安心して生きていけるのだろうかという不安感を持つ子どもたちも多く存在している事実があります。
社会的経済的要因: 外国につながる子どもたちの親の社会的、経済的地位が低い場合、その子どもたちの学業へ支障をきたすことがあります。上に記載した課題によって、子どもたちは学校の授業についていけなくなってしまうケースがあるのですが、その場合、適切な学習支援や教育支援サービスと繋がり、支援を受けることで、取り返せないほどの学習の遅れが発生することは防げます。しかし、情報不足により必要な支援に辿り着くことができなかったり、支援を受けたくても経済的に難しく、断念したりするケースも後を絶ちません。理想的なのは、外国につながる子どもたちの親が一定の安定した収入を得られる職につき、子どもを育てながら仕事をし、一家を養っていくことではあるものの、言語や能力によって就ける職業、そして収入に限りがある、と言うのが現状です。
外国につながりのある子どもが必要としている支援
外国につながりのある子どもたちは課題だけを抱えているのではなりません。彼らならではの素晴らしい特徴も持っています。2つ以上の国の言語や文化をネイティブレベルで理解していると言うことは、彼らの世界を広げることになるでしょう。そして、今後日本と外国とのつながりになっていく可能性も高いのです。
そんな彼らが健康に成長し、自己実現を果たすためには適切な支援が必要不可欠です。外国につながりのある子どもたちに必要とされている支援を下記にまとめています。
言語サポート
言語クラス: 言語による困難さを克服するために母国語や現地の言語を学ぶための言語クラスを提供します。これにより、子どもたちは自己表現や学業のサポートに役立つ言語スキルを磨くことができます。
バイリンガルプログラム: 子どもたちが母国語と現地の言語を両方活用できるバイリンガルプログラムを導入します。これにより、言語のバリアーを減少させます。日常で使用する日本語の習得を目指すとともに、国籍の言語や自身のアイデンディディを形作る国の言語を失わないよう、バランスよく学び、双方の言語力を育てるサポートが求められています。
多文化教育の促進
多文化共生教育: 学校での多文化共生教育を強化し、異なる文化や価値観を尊重する教育環境を整えます。教材や活動を通じて多様性を理解し、肯定的に受け入れる文化を醸成します。
異文化祭や国際交流イベント: 学校やコミュニティで異文化祭や国際交流イベントを開催し、子どもたちが異なる文化に触れ、国際的な視野を広げる機会を提供します。
心理的サポート
カウンセリングサービス: 心理カウンセリングやメンタルヘルスのプログラムを提供し、子どもたちがストレスやアイデンティティの問題に対処できるようにします。自分の気持ちを他人に打ち明けるのは、なかなか難しいもの。ましてや慣れない日本語を用いて、子どもたちが自分の気持ちを話すのは至難の業でしょう。そのため、外国人スタッフや通訳によるサポートを受けながらカウンセリングサービスを実施していくのが望ましいと考えられます。
サポートグループ: 同じような経験を共有する子どもたちが参加できるサポートグループを設立し、コミュニティを形成します。悩みやストレスを共有し、やりたいことの実現をサポートする体制が整うことで、子どもたちがのびのびと学び、自発的な活動を促すことができます。
教育への平等なアクセス
教育リソースの提供: 教科書や学習支援ツール、学習環境に平等なアクセスを提供し、低所得世帯の子どもたちに特にサポートを行います。
学習支援プログラム: 学業に苦労する子どもたちに向けた個別の学習支援プログラムを提供し、幅広い発信により情報の格差を埋める必要があります。適切な支援が適切な場所に届くことで、学業の遅れを減少できる機会を平等に保証する必要があります。
カルチャー・センシティブなアプローチ
専門家のトレーニング: 教育機関や医療機関のスタッフに、多文化共生に関するトレーニングを提供し、文化的な違いに敏感で適切なサポートが提供できるようにします。
保護者との連携: 外国出身の保護者とのコミュニケーションを強化し、学校と家庭の連携を図り、子どもたちの成功に向けて協力します。家庭訪問や面談などを通して、家庭内で起こっている問題を早期に発見し、適切な支援サービスと繋ぐことが大切です。
外国につながりのある子どもへ行われている支援
言語・学習・進学サポート: 外国人の子どもたちがのびのびと学び、その先の自己実現を叶えられるようなサポート体制が地域のNPO団体などによって整備されつつあります。学年や、困り感に合わせたサポートによってできるだけ低価格で支援を受けられるような奨学生制度なども合わせて、適切に支援を届けられるような工夫がなされています。
カウンセリング: 学校や地域センターで提供される心理カウンセリングサービスは、子どもたちの心理的なサポートとストレス管理を支援しています。外国につながりのある子どもたちが年々増加傾向にあることを踏まえて、専門のカウンセラーや通訳者を学区に配置したりする試みが行われています。
国際交流イベント: 地域コミュニティが国際交流イベントを開催し、外国人の子供たちと地域住民が交流できる場を提供しています。これにより、外国につながる子どもたちが日本の子どもたちと関わり合い、信頼関係や理解を深める機会を作っています。また、地域の図書館や文化センターで、外国の伝統や文化に関するイベントやワークショップが開催され、子どもたちが相互に異文化を学ぶことができます。
学校給食の多様化: 学校給食で異なる国の料理を提供することで、子どもたちは異なる文化の食事を楽しむ機会を得られます。これは文化交流の一環として行われます。今後は文化体験としてではなく、実際の日本の給食に対して困難を抱えている子どもたちそれぞれの課題を解決できるような学校給食のあり方が検討されていく必要があります。
地域ボランティア団体: 地域のボランティア団体は、外国人の子供たちとその家族に対するさまざまな支援活動を行っています。これには学習支援や放課後デイサービスなども含まれています。
おわりに
外国につながりのある子どもたちは、多様性と豊かな経験を持つ特別な存在です。しかし、彼らが直面する課題に対処し、彼らのポテンシャルを最大限に引き出すためには、支援が必要不可欠となります。多文化共生の理念のもとで、彼らが日本社会において、自分を尊重し、成長できるように努力を続けることが重要となってくるでしょう。我々は、彼らをそん要するとともに、確実に平等な機会を提供し、共に豊かな未来を築く責任を背負っています。