日本の在留外国人の実態と取り巻く課題について

2023/11/13

はじめに

在留外国人。その言葉を耳にすることは増えてきましたが、彼らが日本でどのような生活をしているのか、具体的にどれくらいの人数がいるのか、また、どんな問題を抱えているのかを正確に知っている人は少ないのではないでしょうか。この記事では、在留外国人の現状と共に、彼らの多様な背景やコミュニティ、そして直面している問題点について深く掘り下げてみたいと思います。彼らとともに共生するために、まずは正確な情報を知り、理解を深めることが必要です。

在留外国人とは

「在留外国人」とは、日本国内に生活・滞在している海外につながりを持つ人の内、中長期にわたり日本に滞在するための資格(在留資格)を持つ、観光目的で訪れた人以外のことを指します。

彼らは留学生、技術者、家族、労働者、難民、配偶者、永住者など、さまざまな在留資格を取得して日本に滞在しています。

※日本に中長期に渡って滞在する海外につながりのある人のことを、法務省が使用している「在留外国人」という呼称を用います。

図1【出典:我が国に生活・滞在する外国人の現状と外国人が生活・滞在する上での課題

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在留外国人の大部分は、韓国、中国、フィリピン、ベトナム、ブラジルなどのアジアを中心に、世界各国から来ていますが、もちろん他の国々の出身者もいます。

彼らが日本で暮らす目的は様々で、一部は短期的な目的(留学や観光)、一部は長期的な目的(永住、家族との再会、結婚)で日本に滞在しています。

日本社会では、在留外国人を取り巻くさまざまな課題や問題が存在します。言語の壁、文化の違い、就労やビザの問題、社会的な差別、人権の保護などが挙げられます。

これらの課題に対処するため、行政や非営利団体、ボランティア団体が支援活動を行っています。

また、在留外国人の中には、日本の社会や文化に対する理解を深め、双方向のコミュニケーションを取るために、地域のイベントや活動に積極的に参加している人々もいます。

在留外国人と日本人の交流や理解を進めることは、多文化共生の観点から重要な課題であり、相互尊重と共に豊かな社会の実現に向けて取り組まれています。

在留外国人の実態

在留外国人の人数

それでは在留外国人は何人いるのでしょうか。

在留外国人統計(旧登録外国人統計)によると、2022年12月末で約300万人いることが分かっています。

在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表

それでは、この2022年12月末に調査が行われたこの統計をもとに内訳を詳しく見ていきましょう。

①国別の内訳

在留外国人の主な国別の内訳は以下の通りです。

【2022年12月末時点での在留外国人の主な出身国と推計人数】

  1. 中国:約76万人

  2. ベトナム:約49万人

  3. 韓国:約40万人

  4. フィリピン:約30万人

  5. ブラジル:約20万人

  6. ネパール:約14万人

  7. インドネシア:約10万人

  8. アメリカ:約6万人

  9. 台湾:約6万人

  10. タイ:約6万人

その他:約50万人

②在留外国人の都道府県別の人数

在留外国人の都道府県別の人数上位10は以下の通りです。

在留外国人の都道府県別の分布は、主に経済活動、雇用機会、教育機会、地域の産業構造などに影響される傾向があります。大都市圏や産業の集中する地域には多くの在留外国人が集まる傾向が見られますが、地域によって異なることもあります。

【2022年12月末時点での在留外国人の都道府県別人数】

  1. 東京都:約60万人

  2. 愛知県:約29万人

  3. 大阪府:約27万人

  4. 神奈川県:約25万人

  5. 埼玉県:約21万人

  6. 千葉県:約18万人

  7. 兵庫県:約15万人

  8. 静岡県:約10万人

  9. 福岡県:約9万人

  10. 茨城県:約8万人

在留外国人のコミュニティ

異なる国籍や文化を持つ外国人が日本国内で共に生活し、情報交換や支援を行うための在留外国人のコミュニティがあります。これらのコミュニティは、日本の社会に順応するためのサポートや、母国の文化や言語を共有する場として機能しています。

在留外国人のコミュニティには、以下のような特徴があります。

国籍別のコミュニティ

特定の国籍の外国人が集まり、共通の言語や文化を共有するコミュニティが存在します。例えば、韓国人、中国人、ベトナム人などの国籍別のコミュニティがあります。

地域別のコミュニティ

特定の地域に住む在留外国人が集まり、地域社会での交流や情報共有を行うコミュニティもあります。

職業別のコミュニティ

同じ職業を持つ外国人労働者が集まるコミュニティもあります。例えば、技術者、看護師、留学生などがそれぞれの職業で支援し合うグループが存在します。

文化・趣味別のコミュニティ

共通の趣味や興味を持つ在留外国人が集まり、文化交流やアクティビティを楽しむコミュニティもあります。例えば、音楽、スポーツ、料理、言語交換などが挙げられます。

これらのコミュニティは、在留外国人同士の交流や情報共有を通じて、日本での生活をより豊かにするだけでなく、異文化理解を深めることにも役立っています。また、日本人との交流イベントや地域行事に参加し、地域社会との関わりを持つことで、多文化共生を促進する重要な役割も果たしています。

コミュニティの活動は個々のグループによって異なりますが、情報交換や相互支援、文化イベントの開催、日本の法律や生活に関する相談などが一般的な活動として挙げられます。

在留外国人を取り巻く問題

出身在留外国人は日本で生活するにあたり、いくつかの問題にぶつかることがあります。出身在留外国人を取り巻く問題は多岐にわたりますが、以下にいくつか代表的な問題をご紹介します。

なお、これらの問題は行政や地域社会、関連団体が取り組んでいる課題であり、解決に向けた取り組みも進行中です。

言語の壁

在留外国人の言語の壁は、日本語が理解できないことによって生じる問題を指します。日本語は非常に独特な言語であり、他の言語とは異なる表現や文法が多く存在します。この言語の違いにより、以下のような問題が発生します。

コミュニケーションの困難: 日常生活や仕事、学校などで日本語の理解に時間がかかるため、日本人とのコミュニケーションがスムーズに行えないことがあります。これにより、生活の不便や孤立感が生じることがあります。

情報の不足: 日本語の理解に時間がかかるため、日本語のテレビ、ラジオ、新聞、ウェブサイトなどからの情報の取得が難しくなります。これにより、命や生活に関わる重要な情報を得ることが困難になる場合があります。

教育の制約: 日本の学校や教育機関で日本語を理解できない場合、学習や教育において遅れを生じることがあります。また、教育機会の制約が生じる場合もあります。

就職の制約: 日本語が必要な職場では、日本語の理解に時間がかかると雇用されることが難しい場合があります。これにより、外国人労働者が就職において制約を受けることがあります。

医療・福祉へのアクセス: 医療機関や福祉サービスでの日本語の理解が難しい場合、適切な医療や福祉を受けることが困難になることがあります。

これらの問題を解決するために、行政や地域社会、NGO、ボランティア団体がさまざまな取り組みを行っています。日本語教育の支援、多言語サービスの提供、翻訳・通訳サポートの充実などが、言語の壁を乗り越えるための重要な施策となっています。また、日本語を学ぶ外国人の意欲を支援することも重要です。

社会的な差別

人種や国籍に基づく偏見や差別的な態度・行動が、日本の社会において在留外国人に対する差別として存在しています。これにより、在留外国人が日本社会において平等な機会や待遇を享受することが難しくなる場合があります。

在留外国人が直面する可能性のある具体的な差別は以下のようなものを挙げられます。

就職や雇用における差別: 在留外国人が、日本の企業や職場で差別的な扱いを受けることがあります。日本語能力や文化の違いから、日本人と同等の雇用機会を得るのが難しい場合もあります。

住宅への差別: 不動産業者やオーナーが在留外国人に対して差別的な態度を取ることがあり、住宅の契約や入居が難しくなる場合もあります。

人種差別的な言動: 在留外国人が公共の場で人種差別的な言動を受けることがあります。レイシズムや差別的なステレオタイプにより、差別的な扱いを受けることがあります。

教育や医療への差別: 在留外国人の子どもたちが学校で差別的な態度を受けることや、医療機関での適切なサービスを受けられない場合もあります。

メディアにおける表現の偏り: メディアが在留外国人に対して偏見を持った報道や描写をすることがあるため、社会的な偏見が広まる可能性もあります。

これらの問題は、日本社会全体での意識改革や教育の充実、差別のない法制度の整備が求められています。多文化共生を促進し、多様性を尊重する社会を築くために、個人や団体、政府の取り組みが必要です。在留外国人の権利を守り、社会的な差別をなくすための取り組みは継続して行われています。

労働条件

在留外国人の労働条件に関する問題は、非常に多様であり、異なる国籍や業種、労働形態によっても違いがあります。一般的に指摘される在留外国人の労働条件に関する問題をいくつかご紹介します。

非正規雇用の増加:一部の在留外国人は、正規の雇用ではなく非正規雇用(派遣労働や契約社員など)で働いている場合があります。非正規雇用の場合、安定した雇用条件や給与、福利厚生が不十分となることがあります。

長時間労働と過酷な労働条件:特に一部の労働分野において、在留外国人労働者は長時間労働や過酷な労働条件を強いられることがあるとされています。これにより、健康への影響や労働者の権利保護に関する問題が生じます。

賃金の低さ:一部の在留外国人は、同じ業務をする日本人と比較して、賃金が低い場合があります。これは、日本語能力の不足や労働市場での競争力の問題などが影響しています。

ビザの制約:在留外国人労働者の中には、労働ビザの取得や更新が難しい場合があり、ビザ制度による制約を受けることがあります。

労働権の制約:一部の在留外国人は、言語の壁や日本の労働制度の理解不足から、自らの労働権を適切に主張できない場合があります。

これらの問題を解決するために、労働条件の改善や外国人労働者の権利保護を目的とした法制度の整備、日本語教育の充実、雇用支援の強化などが行われています。また、労働者の権利を守るための労働組合や労働相談窓口も存在し、労働環境の改善に向けた取り組みが行われています。

ビザ・滞在資格の問題

在留外国人のビザ・滞在資格に関する問題は、外国人が日本で合法的に滞在するためのビザ取得や滞在資格の維持に関連する様々な課題を指します。一般的に指摘される在留外国人のビザ・滞在資格に関する問題をいくつかご紹介します。

ビザの種類と条件: 日本には留学生、技術者、家族、配偶者、永住者など、さまざまなビザがありますが、それぞれに異なる条件があります。適切なビザを取得し、条件を満たすことが重要ですが、そのためには申請手続きや要件の理解が必要です。

ビザ更新の難しさ: 一部のビザは、有効期限があり、定期的に更新する必要があります。ビザの更新には条件を再確認し、要件を満たす必要があります。条件を満たさない場合、ビザが更新されない可能性があります。

特定技能ビザの受け入れ政策: 2019年に導入された「特定技能ビザ」は、外国人労働者を受け入れる制度ですが、実際の運用や受け入れ企業との課題もあります。

滞在期間と永住権: 在留外国人の一部は、永住権を取得するための条件を満たすことが難しい場合があります。滞在期間が限定されるため、永住権の取得が望めない場合もあります。

難民認定の問題: 難民として認定されるためには、一定の要件を満たす必要がありますが、日本では世界的に難民の受入人数が少なく、難民認定を受けることが難しい実態があります。

これらの問題に対処するために、行政は外国人の滞在資格のスムーズな取得やビザの適切な更新、永住権取得などを支援する制度やサポートを提供しています。また、外国人の権利保護やビザ制度の改善に向けた法改正も行われています。ただし、ビザ・滞在資格の問題は個々のケースによって異なりますので、関係者は専門機関や法律専門家と相談することが重要です。

教育の課題

在留外国人の教育の課題は多岐にわたります。一般的に指摘される在留外国人の教育に関する問題をいくつかご紹介します。

日本語教育のニーズ:日本語が母国語でない在留外国人の子どもたちにとって、日本語教育のニーズがあります。日本語の理解が不十分なため、学校や学習において適切なサポートが必要です。

学校適応の課題:日本の学校に入学する際、言語や文化の違いから、学校適応に課題を感じることがあります。学習環境や学校生活に適応するための支援が必要です。

多文化共生の推進:異なる文化背景を持つ在留外国人の子どもたちを受け入れるために、多文化共生を推進する教育環境の整備が求められます。異文化理解や相互尊重を促進する取り組みが重要です。

カリキュラムの対応:外国からの転校生や留学生などに対して、カリキュラムの適切な対応が求められます。母国語と日本語の学習のバランスや、留学生の進級に伴うクレジットの認定などが課題となります。

学力格差の是正:一部の在留外国人の子どもたちは、日本の学校において学力格差が生じることがあります。適切なサポートや補習の充実が必要です。

これらの課題に対応するために、行政や地方自治体、学校、教育機関、NGOなどが様々な取り組みを行っています。日本語教育の充実、多文化共生教育の推進、留学生支援の強化などが、在留外国人の子どもたちの教育の課題への対応に役立っています。在留外国人の子どもたちが適切な教育を受け、社会で活躍できる環境を整えることが重要です。

医療・福祉へのアクセス

在留外国人の医療・福祉へのアクセスに関する問題は、言語や文化の違い、制度の理解不足、差別的な態度など、さまざまな要因によって生じます。一般的に指摘される在留外国人の医療・福祉に関する問題をいくつかご紹介します。

日本語の理解不足:日本語が母国語でない在留外国人にとって、日本の医療・福祉制度の理解が難しい場合があります。言語の壁により、病状や医療情報の理解が困難になることがあります。

文化的な違い:在留外国人と日本の医療・福祉従事者との文化的な違いから、コミュニケーションが円滑に行えないことがあります。信頼関係を築く上での課題があります。

医療・福祉制度の違い:在留外国人の母国と日本の医療・福祉制度の違いにより、受けるサービスや支援に違いが生じることがあります。

カルチャーショック:在留外国人が日本の医療機関や福祉施設を利用する際に、異なるカルチャーによるストレスを感じることがあります。

差別的な態度:一部の在留外国人が医療機関や福祉施設で差別的な態度を受けることがあります。レイシズムや偏見により、適切なサービスを受けることが困難になることもあります。

これらの問題に対処するために、行政や地方自治体、医療・福祉機関はさまざまな対応策を講じています。例えば、多言語対応の医療・福祉サービスの充実、外国人向けの情報提供、文化的な理解を促進するトレーニングの実施などが挙げられます。在留外国人が適切な医療・福祉を受けられる環境を整えることが重要です。

犯罪・人権の保護

在留外国人の犯罪・人権の保護に関する問題は、人種や国籍に基づく差別、人権の侵害、犯罪被害への対応など、複数の側面にわたります。一般的に指摘される在留外国人の犯罪・人権に関する問題をいくつかご紹介します。

人種差別や偏見による問題:一部の在留外国人が人種差別や偏見に直面することがあります。仕事や住居の探索、公共の場での差別的な態度を受ける可能性もあります。

労働環境の問題:一部の在留外国人は、過酷な労働条件や非正規雇用で働くことがあるため、労働者の権利保護に関する問題が生じることがあります。

犯罪被害への対応:在留外国人が犯罪被害に遭った場合、警察や司法機関とのコミュニケーションの課題があるかもしれません。犯罪被害の報告や証拠提出に際して、言語や文化の違いからハードルが高くなる場合があります。

ビザ・滞在資格による脆弱性:在留外国人の中には、ビザや滞在資格の問題で、法的な脆弱性を抱える人々もいます。このような脆弱性を悪用する不法行為が問題となることがあります。

国際結婚における人権問題:日本人との国際結婚によって在留外国人が日本に移住した場合、パートナーシップや離婚において人権問題が生じることがあります。

これらの問題に対応するために、行政や地方自治体、関連団体は、人権保護の強化や差別撤廃に向けた取り組みを行っています。また、警察や司法機関において、多言語対応や異文化理解を促進することで、在留外国人の犯罪被害への対応を改善する努力も行われています。人権を尊重し、多様性を受け入れる社会の構築が重要です。

これらの問題に対して、行政や地域社会、NGO、ボランティア団体などがさまざまな支援活動や法制度の改善を行っています。多文化共生の推進や人権保護、公平な社会の構築に向けて、引き続き取り組んでいく必要があります。

在留外国人に対するサポートの例

これらの問題に直面する可能性がある在留外国人をサポートするために、行政、地方自治体、NGO、ボランティア団体などが様々な取り組みを行っています。いくつかの

サポートの例をご紹介します。

日本語教育の支援:日本語が理解できない在留外国人のために、日本語教育の機会を提供しています。行政や地方自治体、民間の日本語学校、NGOなどが日本語教室や日本語学習サポートを提供して、言語の壁を乗り越えるサポートをしています。

多言語対応の医療・福祉サービス:在留外国人が医療機関や福祉施設で必要な情報を得るために、多言語対応のサービスを提供しています。通訳サービスの提供や多言語のパンフレット・案内の作成などが行われています。

多文化共生教育の推進:学校や教育機関において、多文化共生教育を推進する取り組みが行われています。在留外国人の子どもたちが日本の学校で適切なサポートを受け、他の生徒と共に学ぶための環境が整備されています。

労働者の権利保護:外国人労働者の労働条件や権利保護に関するサポートが行われています。労働相談窓口や労働組合の活動などが、労働者の権利を守るために行われています。

外国人向けの情報提供:在留外国人向けに、日本の生活や社会に関する情報を提供しています。生活ガイドや就労情報、法律に関する情報などが提供され、日本での生活を支援しています。

緊急支援の提供:災害時や緊急時に、在留外国人向けの緊急支援が行われることがあります。避難所でのサポートや食料・生活必需品の提供などが行われます。

これらの事例は、在留外国人を支援するために様々な組織や個人が取り組んでいるものであり、その数はさまざまです。在留外国人の権利保護や社会参加のための取り組みが継続的に行われています。

さいごに

記事を通して、在留外国人の多様性や彼らが日本で直面する課題を少しでも理解していただけたなら幸いです。彼らの存在は、日本社会に新しい文化や価値観をもたらし、私たちの生活を豊かにしています。しかし、彼らとの共生は、双方の理解と努力を必要とします。私たち一人一人が、在留外国人との接点を持つ機会を大切にし、お互いの理解を深めていくことで、より良い共生社会を築いていくことができるでしょう。今後も、この課題に対する取り組みを続けていきたいと思います。