障害者を取り巻く社会課題

2023/11/15

はじめに

この記事では、日本における障害者の現状と社会が直面している課題に焦点を当てます。障害を持つ人々の権利、健康、そして社会参加のための障壁となる要因を明らかにし、解決策を探求することで、より公正で包摂的な社会の実現に向けた一歩を踏み出す機会とします。それぞれの障壁には、具体的な改善策と取り組みが存在し、私たち全員の協力と理解が求められています。

本記事では、障害者を取り巻く問題全般を広く取り上げていくため、現状を正しく理解することで、「自分には関係のない話」ではなく、「私たちの課題(Our issues)」と捉え、解決の糸口を知ることができるでしょう。ぜひ最後までご一読いただき、障害者を取り巻く課題について深く理解をしていきましょう。

※本記事では、社会の側に整備されていない部分や理解が足りない面があり、そのために不利な状態にあるのが「障害」である、という社会モデルの考え方から、「障害者」という記述で統一しています。

障害とは

障害者を取り巻く問題を述べる前に、まずは障害者への理解と現状について探っていきます。

現在、日本には、約964万人の障害者とされる方々が暮らしていらっしゃいます。そして「障害」は「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つに区分されます。以下では、3つの区分けについて「身体障害、知的障害、精神障害の分類について ニコドライブ」から一部、引用を用いて、詳細を述べていきます。

身体障害について:

身体障害とは、歩行や身体の動き、感覚機能などの障害を持つことで、日常生活や社会生活において何らかの困難を経験する状態を指します。身体障害は、先天的なものや事故、病気などによって後天的に獲得されるものがあります。また、身体障害は大きく以下の5つに分類されます。

①視覚障害

眼球、視神経および大脳視中枢などで構成される視覚系のいずれかの部分に障がいがあるため、見ることが不自由または見えなくなっている状態のことです。見え方にはひとりひとり差異があり、視力が低くなるまたは視野が狭くなる(弱視)、光も感じない(全盲)など様々です。

②聴覚障害

外部の音声情報を大脳に送るための部位(外耳・中耳・内耳・聴神経)のいずれかに障がいがあるため、音を聞くことが不自由、または聞こえなくなっている状態のことです。聞こえ方には一人一人で差異があり、聞き取り辛くなる、音は聞き取れるが内容が聞き分けにくくなる、補聴器をつけても音や音声がほとんど聞き取れなくなくなる、など様々です。

③音声機能障害

咽頭、発声筋等の音声を発する器官の障がいにより、音声のみを用いて意思の疎通をすることができない、または音声をまったく発することができない状態のことです。

④内部障害

疾患などによって内臓の機能が低下している状態のことです。「内部障がい」とは内臓機能障がいの総称で、心臓機能障がい、腎臓機能障がい、呼吸機能障がい、膀胱・直腸機能障がい、小腸機能障がい、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障がい、肝臓機能障がいの7つを指します。外見からは見えにくい障害のため、周囲からの理解を得にくい、配慮を受けにくいなどの問題があります。

⑤肢体不自由

医学的には、先天性か後天性かを問わず、四肢の麻痺や欠損、あるいは体感機能に永続的な障がいがある状態のことです。身体障がいのうちで最も割合が高く、身体障がい者手帳を交付されている人の約半数を占めています。原因としては脳性麻痺、脊髄損傷、脊椎脊髄疾患などがあります。これらによって同じ姿勢や動きを長期間続けることになり、身体の変形、気道や尿路の感染症などの二次障がいが見られることも少なくありません。

知的障害について:

知的障害は、認知機能や学習能力に困難がある状態を指します。通常、知的障害は18歳前に発症するものとされ、一般的な学習や問題解決、日常生活のスキル習得において困難を伴います。知的障害の度合いや特性は個人差があり、それに応じた支援や教育が求められることが多いです。また、知的障害の原因として多くは以下の3つに分類されます。

①病理的原因

先天性疾患(染色体異常など)、出産時の事故(酸素不足など)、生後の高熱などによるもの。
脳性麻痺、てんかん、心臓病などを合併している場合もある。

②生理的要因

身体に特別な異常は見られないが、脳の発達障害によって知能が低い水準に偏ったと考えられるもの。障害の度合いは軽度〜中等度であることが多く、知的障害を持つ方の多くは本要因とされる。

③心理的要因

児童虐待など、著しく不適切な発育環境に置かれていることによるもの。

精神障害について:

精神障害は、感情、認知、行動などの精神的機能においての障害や異常を指します。これには、うつ病、統合失調症、双極性障害などの精神疾患が含まれます。精神障害は、生物学的要因や心理的要因、社会的要因など複数の要因によって引き起こされることが多く、治療やケアには多角的なアプローチが必要とされています。

障害者を取り巻く社会問題とは

日本には、現在約964万人の障害者とされる方々が暮らしていらっしゃいます。「障害」は「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つに区分されます。

まず、「身体障害」

これらの障害者は、日々さまざまな困難に直面しています。多くの場合、社会の構造とシステムが彼らのニーズに十分に対応しきれていないことが、その困難の原因です。

具体的には、以下のような社会の課題に影響されることがあります

1. 物理的な課題

障害者が公共の場所、施設、交通機関などにアクセスする際に直面する障壁です。建物の入り口に階段のみがある、ドアが狭く車椅子での通行が困難、公共交通が利用しにくいなど、障害者が日常生活で利用する施設やサービスへのアクセスが限られ、移動や活動が制限されます。

2. 制度的な課題

障害者の権利やアクセスを制限する法律、政策、規則などの制度的な障壁です。障害者のサポートや権利を保障する法律が不足もしくは不適切、政策の実行が不十分、支援サービスへのアクセスが複雑または制限されているなど、制度や法規制のギャップが障害者の生活を困難にしています。

3. 文化・情報面の課題

情報のアクセス、通信、言語、文化的な要因が障害者の社会参加や情報アクセスを制限する障壁です。情報伝達が視覚や聴覚に依存しており、障害者にとってアクセスしにくい。文化的な偏見や理解の不足が社会参加を妨げ、情報の入手、コミュニケーション、表現の機会が制限されています。

4. 意識上の課題

障害者に対する社会的な偏見、誤解、スティグマが、彼らの社会参加や自己表現を制限する心理的・社会的な障壁です。障害者に対する社会的なスティグマや偏見、誤解が存在し、これにより彼らは孤立または差別されることがあります。これは障害者の自己評価、社会参加、職業選択などにネガティブな影響を与えています。

下記では、これらの課題の詳しい事例を紹介します。

物理的な課題

物理的な課題は、障害者が社会に参加し、日常生活を送る上で直面する主要な障壁の一つです。これらの課題は、公共の場、施設、交通機関、街のインフラ、そして自宅といった多様な環境で存在し、障害者の自立と社会参加を妨げています。

以下で、物理的な課題が直面する具体的な側面を5つ取り上げ、それぞれの問題と解決策について深く探ります。

1. 建築物と施設のアクセス

障害者に優しくない建築設計は建物の入り口に階段しかない、ドアが狭く車椅子での通行が困難などの問題があります。これにより、障害者は公共の建物や施設へのアクセスが制限され、社会から隔離されるリスクが高まります。これを解消するためには、建築基準の見直しや、既存の建物のリノベーションが必要です。

2. 公共交通機関

公共交通機関の利用が障害者にとって困難である場合もあります。バスや電車のステップ、プラットフォームと車両の隙間、駅や停留所の不適切な設計などが、移動の自由を制約しています。これに対する対策として、車両や駅の設計の改善、アシスタンスサービスの提供などが求められます。

3. 街のインフラ

歩道が狭い、道路の舗装が不適切、信号機が視覚や聴覚障害者に優しくないなど、街のインフラが物理的な課題を形成しています。これに対処するには、都市のインフラと設計を障害者に優しいものに改良する必要があります。

4. 情報とサービスのアクセシビリティ

ATMや自動販売機、公共の情報表示板などが、視覚や聴覚障害者にとって使いづらい設計となっている場合、これらも物理的な課題となります。設備の設計改善とテクノロジーの活用で、これらの問題を克服する方策が求められます。

5. 住居と居住環境

障害者の住居と居住環境も、移動や日常生活を制約する物理的な課題を持つ場合があります。家の中の階段、狭い空間、不適切な設備などが、安全で快適な居住を妨げる要因となっています。建築基準の見直しや、住居の改良と補助を通じて、これらの問題を解決する必要があります。

物理的な課題の問題に対処するためには、包括的かつ具体的なアプローチが必要です。建築基準の改善、公共交通と都市インフラのアクセシビリティ向上、情報とサービスの利用しやすさの確保、そして住居と居住環境の最適化が重要なステップとなります。これらの課題に対して社会全体が協力し、法律、政策、技術、そして市民の意識の進化を促進することで、障害者も含めたすべての人がより豊かで質の高い生活を享受できる社会を実現できると考えられております。そのためにも、それぞれのステークホルダーが責任と役割を果たすことが重要です。

制度的な課題

制度的な課題は、障害者が自己の潜在能力を最大限に発揮し、社会に積極的に参加するのを妨げる法律、政策、制度などの障壁を指します。これらの課題は、教育、雇用、健康ケア、公共サービスへのアクセスを制限し、障害者の権利と機会を侵害する可能性があります。
以下で、制度的な課題の具体的な側面を4つ挙げ、それぞれの問題と解決策について深く探ります。

1. 法律と政策の適用と浸透

法律や政策はあるものの、それが実際の現場に十分に浸透し、効果を発揮していない場合があります。例えば、障害者雇用に関する法律が存在しても、企業の中で十分に活かされていない、または障害者の能力に焦点を当てた採用が進んでいないことがあります。これは、法律や政策と現場の意識や実践が一致していないことに起因することが多いです。これを解決するためには、政策の改良、意識の変革、実践のフォローアップと評価が必要です。

2. サポートサービスへのアクセス

適切な支援サービスへのアクセスが困難である場合、情報の不足、複雑な手続き、資源の欠如などが、障害者が必要なサポートを受け取る障壁となっています。

3. 教育の機会

教育制度が障害者のニーズに応えていない場合、それは彼らの学習と発展の機会を奪います。特別な教育ニーズに対応する資源、トレーニング、技術の不足が、教育の質とアクセシビリティを損なう可能性があります。

4. 雇用と労働市場

障害者に対する雇用の機会が限られていることも、制度的な課題の一例です。雇用する際の労働条件などの基準が不足していたり、企業の偏見や誤解に基づいた採用の障壁、キャリア開発の機会の欠如などが、障害者の雇用を制限しているケースがあると考えられております。

制度的な課題は、障害者の生活の質、自立、社会参加に深刻な影響を与えています。これらの障壁を解消するためには、権利保護、アクセスと機会の平等、資源とサービスの提供に焦点を当てた法律、政策、制度の改善や浸透が不可欠です。全てのステークホルダー、特に政府、法制度、市民社会が連携し、包括的な解決策を実行に移すことで、より公平で包括的な社会を構築する手助けとなるでしょう。

文化・情報面の課題

文化・情報面の課題は、障害者が情報にアクセスしたり、文化的な活動に参加したりする際に直面する障壁です。これらの課題は、コミュニケーション、情報の取得、そして文化へのアクセスを困難にし、障害者の社会参加を制限する可能性があります。

以下で、制度的な課題の具体的な側面を5つ挙げ、それぞれの問題と解決策について深く探ります。

1. 情報のアクセシビリティ

障害者にとって、情報へのアクセスが制限されている場合があります。ウェブサイトやアプリが障害者に対して利用しにくい設計である場合があります。これには、ウェブアクセシビリティの向上や、アクセシブルな情報通信技術の開発と普及が必要と考えられております。

2. コミュニケーションの障壁

視覚や聴覚障害者が直面するコミュニケーションの障壁も大きな問題です。言語、文字、音声などのコミュニケーション手段が限定されていると、情報の取得や人間関係の構築が困難になります。多様なコミュニケーション手段の導入と普及が求められております。

3. 文化的なスティグマ

障害者に対する文化的なスティグマや偏見が、彼らの社会参加を妨げています。これは、一般社会の意識や態度の問題であり、教育と啓発を通じて解決する必要があります。

4. 教育と学習資源

教育と学習資源へのアクセスが限られていると、障害者の知識とスキルの習得が阻害されます。教材、オンラインリソース、教育プログラムなどがアクセシブルでないと、学習の機会が奪われてしまいます。

5. エンターテインメントとメディア

エンターテイメントとメディアのコンテンツがアクセシブルでない場合、障害者は文化的な体験から疎外される可能性があります。コンテンツのアクセシビリティを向上させ、多様な表現形式を採用することが必要です。

文化・情報面の課題の解消は、障害者が社会に完全に参加し、その潜在能力を最大限に発揮するためには欠かせない要素です。情報とコミュニケーションのアクセシビリティ、文化的な偏見の克服、エンターテイメントと教育のアクセスを改善することで、障害者の社会参加が促進され、より包括的な社会が構築されます。それぞれのステークホルダーが連携し、具体的なアクションをとることが求められます。

意識上の課題

意識上の課題は、障害者が社会に参加する際に、他人の認識や態度、偏見から生じる障壁です。これは、障害者の能力、権利、および潜在能力を誤って評価または無視する傾向に起因しています。

以下では、意識上の課題の具体的な側面を5つ挙げ、それぞれの問題と解決策について深く探ります。

1. 社会的偏見

障害者に対する社会的偏見は、彼らの能力と価値を低く評価する傾向に繋がります。これらの偏見は、雇用、教育、社会サービスへのアクセスを制限する可能性があり、教育と啓発活動で克服する必要があります。

2. 誤った認識

障害者に対する誤った認識や理解は、彼らの権利と尊厳を侵害する可能性があります。具体的な知識と情報の提供、並びに正確な認識の普及が必要であると考えられております。

3. 情報の欠如

障害者のニーズと権利に関する情報の欠如は、社会の意識上の課題を強化します。これには、情報の提供とアクセスの改善が求められます。

4. 言語とコミュニケーション

言語とコミュニケーションの障壁も、障害者に対する意識上の課題の一因です。これは、コミュニケーションのスキルと方法の改善を通じて克服することができると考えられております。

5. 被差別と排除

障害者が被差別や排除を経験することは、彼らの自己価値感と自尊心に影響を与え、社会参加を妨げる可能性につながると考えられるため、社会的にインクルーシブな考えの推進が必要であると考えられます。

意識上の課題の克服にあたり、偏見の排除、正確な情報と認識の普及、言語とコミュニケーションの障壁の解消、及び社会的インクルーシブの推進は、意識上の課題を減少させる鍵です。全てのステークホルダーが連携して、これらの課題に取り組むことで、より公正で包括的な社会を形成する基盤を築くことができます。

障害者を取り巻く問題に対する取組み

1. 就労の機会拡大:就労継続支援事業所の設置

障害を持つ人々の社会参加をサポートする重要な取組みの一つが、就労継続支援事業所の設置です。これは障害者が持続的に働き続けることを可能とする施設で、日常生活のスキルや職業訓練を提供する場でもあります。個々の障害や希望、能力に合わせたサポートが行われ、自分のペースでスキルアップや社会復帰を目指すことができます。これにより、障害者も一般の労働者と同様に、自らの力で生計を立て、社会とのつながりを保つことが期待されます。例えば、手作業による作業からPCスキルの研鑽など、多岐にわたるプログラムが用意され、障害者一人ひとりが自身のペースでスキルアップできる環境が整備されています。

2. 技術の活用:アシスティブテクノロジーの導入

アシスティブテクノロジーは、障害を持つ人々の日常生活や職場での作業をサポートする技術のことを指します。例えば、視覚障害者のための画面読み上げソフトや、身体障害者のための特別な入力デバイスなどがこれに該当します。これにより、障害を持つ人々も効率的に業務を遂行し、自己実現を果たす手助けとなっています。

このように、最新の技術の導入により、障害者でも自らの力で情報を取得したり、職務を遂行したりすることが可能となり、社会参加の幅が広がっています。

3. 法制度の改善:障害者雇用率の見直し

障害者の社会参加を後押しするため、多くの国では法的な措置が取られています。政府は障害者の雇用推進を図るため、障害者法定雇用率の見直しを行っています。これにより、多くの企業が障害者の採用を促進し、職場での多様性が増し、社会全体の包摂性向上に寄与しています。一方で、ただ数を増やすだけでなく、適切な職場環境の整備やサポート体制の構築も重要となってきます。

4. 社会的意識の変革:啓発活動と教育

障害者への偏見やスティグマをなくすためには、社会全体の意識改革が不可欠です。啓発活動や教育を通じて、障害者の潜在能力や社会参加の意義を伝えることで、より包摂的な社会を形成するための基盤を築くことができます。例えば、「障害者週間」など、障害者に対するスティグマや偏見の解消を目指し、啓発活動や教育が強化されています。

また、学校教育やメディア、公共の場でのキャンペーンなどを活用して、障害者と非障害者が共生する社会を目指す動きが広がっています。

5. アクセシビリティの向上:バリアフリーの推進

バリアフリーは、物理的な障壁を取り除くことで、すべての人が等しくサービスや情報にアクセスできる環境を作る取り組みを指します。公共の施設や交通機関におけるバリアフリー化は、障害者だけでなく、高齢者や子育て中の家族など、多くの市民の生活の質を向上させるものです。この取り組みは、障害者だけでなく、高齢者や育児中の親など、社会全体が利用しやすい環境を作ることで、多様性を受け入れる文化を育てる役割も果たしています。

おわりに

本記事では障害者を取り巻く課題と、その解決策を紹介しました。日常生活の至る所で、様々な課題があり、困り感を感じている人々がいるということを、まずは知ることから始めましょう。多くの課題がある中でも、具体的な解決策を推し進める取り組みはすでに始まっています。それぞれの障壁を解消し、全ての人が平等に社会に参加できる環境を作り出すためには、持続的な努力、改革、そして社会全体の意識の変革が必要不可欠です。障害者を取り巻く社会課題は、当事者らや彼らの支援者だけで解決を目指す問題ではなく、政府、企業、教育機関、そして一人一人の市民が協力して進めていくべき重要なテーマだと考えます。私たち一人ひとりが、障害者の方々の権利と尊厳を認識し、その実現のために積極的に行動することで、より暖かく、包摂的な社会が築かれることでしょう。